「被写界深度ってよく聞くけど、正直よくわからない」
この記事では、「被写界深度(ひしゃかいしんど)」の意味から、どうすれば自分の思い通りに背景をぼかしたり、全体をくっきり写すことができるのかを、初心者でもわかるように丁寧に解説します。
この記事を読むことで、以下のような知識が得られます。
- 被写界深度とは何かがわかるようになる
- F値やレンズの選び方で写真がどう変わるのかが理解できる
- 撮影シーンごとの使い分けが身につく
「ピントの合う範囲をコントロールしたい」「背景をキレイにぼかしたい」
そんな方にこそ読んでほしい内容です。

被写界深度(ひしゃかいしんど)とは、カメラで撮影したときに「ピントが合っているように見える範囲」のことです。
写真を見ると、手前から奥までピントが合っているように見えることもあれば、背景だけがボケて見えることもあります。
これはすべて被写界深度の違いによるものです。
ピントは面で合う
カメラのピントは、1点だけに合うのではなく、実は「面」で合っています。
つまり、被写体がその「ピント面」上にあれば、どこにあっても同じようにピントが合って見えるのです。
レンズがピントを合わせる仕組みは、被写体からの光を集めて、イメージセンサーの一点に結ぶことにあります。
このとき、ピントが合うのは奥行きのある空間の中の「ある特定の距離の平面」です。
この平面を「ピント面」または「焦点面」と呼びます。

ピントは平面で捉えると理解しやすくなります。
ピントは点ではなく、一定の距離にある「面」に合っているため、ピントを正確に合わせるには、その面上に被写体を配置することが重要です。
ボケ味をコントロールしたい場合も、このピント面を意識することで、思い通りの写真が撮れるようになります。
被写界深度はピント面からピントが合っているように見える範囲
被写界深度とは、カメラでピントを合わせた位置(ピント面)を中心に、前後に「ピントが合って見える」範囲のことです。
実際にピントがぴったり合うのは、被写体がある「1枚の面」だけですが、ピント面の前と後ろも、ピントが合っているように見えます。
この見た目のピントの合い具合は、以下の条件で変わります。
この3つの条件が変わると、ピントが合って見える範囲(被写界深度)も変化します。
被写界深度が浅い・深いとはどういうこと?
被写界深度が「浅い」とは、ピントが合って見える範囲がとても狭くなる状態のことです。
そのため、被写体にしっかりピントを合わせた場合でも、背景や手前は大きくぼけて見えるようになります。
このボケ効果によって、被写体がより際立ち、印象的な写真になります。
被写界深度が「浅い」


一方で、被写界深度が「深い」とは、カメラのピントが合って見える範囲が広くなる状態を指します。
つまり、手前から奥までの広い範囲で、被写体すべてが比較的くっきりと写るようになります。
風景写真や集合写真など、全体にピントを合わせたいときに役立ちます。
被写界深度が「深い」


- 被写界深度が「浅い」:ピントが合って見える範囲が狭い
- 被写界深度が「深い」:手前から奥まで広い範囲にピントが合って見える
被写界深度が浅いと、背景が大きくボケて主役が引き立ちます。
逆に、被写界深度が深いと、全体がくっきり写ります。
シーンによってどちらがよいかは異なりますが、どちらの効果も理解して使い分けることが大切です。

被写界深度の深さや浅さは、カメラの設定や撮影の条件によって変わります。
特に大きく影響するのが「絞り(F値)」「焦点距離(レンズ)」「被写体との距離」の3つです。
この3つの要素を理解して使い分けることで、ボケをコントロールできるようになります。
絞り(F値)と被写界深度の関係:開放と絞り込みの効果
F値を小さくすると被写界深度が浅くなり、大きくすると深くなります。
F値とは、簡単に言うとレンズの「絞りの開き具合」を数字で表したものです。
F値を小さくすると、絞りが大きく開くため、光がたくさん入りますが、この状態では、ピントが合って見える範囲がとても狭くなり、背景や前景が大きくぼけて見えるようになります。
逆に、F値を大きくすると、絞りが狭くなり、光の量は少なくなりますが、ピントが合っているように見える範囲が広がり、写真全体がくっきりと見えるようになります。
つまり、F値を変えることで、写真の雰囲気や伝えたい印象を大きくコントロールすることができるのです。
- F値が小さい(例:F1.4)→ 絞りが大きく開いて光がたくさん入る → 被写界深度が浅くなる
- F値が大きい(例:F11)→ 絞りが狭くなって光が少ししか入らない → 被写界深度が深くなる
絞りを開ければボケが強くなり、絞れば全体がはっきりします。
F値の調整はボケ感をコントロールする最も基本的な方法です。

焦点距離の違いがもたらすボケの変化:広角と望遠の比較

焦点距離が長い(望遠)ほど背景が大きくボケやすく、焦点距離が短い(広角)ほど全体がくっきり見えるようになります。
これは、レンズが被写体をどのように切り取るかによって、被写界深度に大きな差が出るためです。
望遠レンズでは、背景との距離感が圧縮され、ピントが合っていない部分が強くボケます。
一方で、広角レンズは広い範囲を映すため、ピントが合っているように見える範囲も広くなり、背景も比較的はっきり写ります。
そのため、被写体を際立たせたいときは望遠、背景も含めて状況を説明したいときは広角を使うのが効果的です。
- 望遠レンズ(例:85mm以上)は、背景との距離が圧縮されて背景が大きくボケます。
- 広角レンズ(例:24mmなど)は、被写界深度が深くなりやすく、背景もくっきり写ります。
ボケを強調したいなら望遠レンズ、全体をはっきり写したいなら広角レンズ。
撮影シーンに応じて使い分けましょう。

被写体との距離が与える影響
カメラと被写体の距離が近いほど、背景が大きくボケやすくなります。
これは、近づくことでピントが合っているように見える範囲(被写界深度)が非常に狭くなるためです。
その結果、ピントを合わせた被写体の後ろにある背景は、急激にボケてしまいます。
背景に建物や木などのディテールがある場合、それらが大きくぼやけて主役の被写体がより強調されるようになります。
また、近づくことで被写体の存在感が増し、写真の印象も大きく変わります。
ポートレート撮影などで、人物を際立たせたいときにも有効なテクニックです。
- 被写体にカメラが近づくほど、その前後の範囲が狭くなるため、背景や手前がぼけやすくなります。
- 遠くから撮ると、その範囲が広がり、背景までピントが合いやすくなります。
ボケを強くしたいときは、被写体に近づくことも効果的です。構図と距離のバランスを意識して調整しましょう。

被写界深度を思い通りにコントロールするには、F値の調整とレンズの選び方がとても重要です。
先述したように被写界深度は、以下の要素によって変わります。
つまり、F値とレンズ選びを意識すれば、被写界深度を直感的に調整できます。
たとえば、F値を小さく設定し望遠レンズを使えば、背景を大きくぼかす写真が撮れます。
逆にF値を大きくして広角レンズを使えば、風景全体をくっきりと見せることができます。
この2つの組み合わせを意識するだけで、被写体の印象を大きく変えることができ、写真表現の幅がぐんと広がります。
また、撮りたいイメージに応じて設定を変えることで、初心者でも意図した写真を撮りやすくなります。

カメラのイメージセンサーサイズが大きいほど、同じ設定でも被写界深度が浅くなりやすいです。
つまり、背景がよりぼけやすくなります。
カメラのイメージセンサーとは、光を受け取る部分のことです。
写真を撮るとき、レンズから入った光がこのセンサーに映し出されて画像になります。
センサーサイズにはいくつかの種類がありますが、ここでは主に次の2つを比べます。
- フルサイズセンサー:35mmフィルムと同じ大きさのセンサー。
- APS-Cセンサー:フルサイズより一回り小さいセンサー。
同じF値のレンズで撮影しても、センサーが小さいAPS-Cの方が被写界深度が深くなります。
フルサイズセンサーで撮った写真と同じような構図で撮ろうとすると、APS-Cのカメラでは被写体から少し離れる必要があります。
この「距離」と「イメージセンサーの大きさ」が組み合わさることで、ピントが合う範囲が広くなり、結果的に背景があまりぼけなくなります。

被写界深度を意識することで、写真の仕上がりを大きく変えることができます。
どんな写真を撮りたいかによって、浅い被写界深度と深い被写界深度を使い分けることが大切です。
ここでは、代表的な撮影シーンでの活用方法を紹介します。
ポートレート撮影で主役を際立たせるボケの使い方
人物を目立たせるには、背景をぼかす浅い被写界深度が効果的です。
ポートレートでは、人物の表情や目に視線を集めることが大切になるので、背景がはっきり写っていると、視線が分散してしまいます。
背景をぼかすことで、主役が写真の中で引き立ちます。
浅い被写界深度を得るには、以下のような設定が有効です。
- F値を小さく(例:F1.4)
- 中望遠レンズを使用(例:85mm)
- 被写体に近づく
ポートレートでは浅い被写界深度を使うことで、背景をやわらかくぼかし、被写体の存在感を高めることができます。
風景写真で全体を鮮明に見せるテクニック

風景全体をくっきり見せたい場合は、深い被写界深度が必要です。
風景や夜景など遠近感のある風景を撮る場合、写真のすべてにピントが合っている方が自然で見やすくなります。
奥行きのある風景を美しく表現するには、以下の設定が効果的です。
- F値を大きくする(例:F8~F16)
- 広角レンズを使用する(例:24mm)
- ピントはやや手前に合わせる
風景撮影では、深い被写界深度を活用して、全体にピントが合ったクリアな写真を撮ることが基本です。
商品撮影(物撮り)における被写界深度の調整と回折現象への対応
商品撮影(物撮り)では、必要な部分にしっかりピントを合わせつつ、ボケの使い方にも注意が必要です。
商品の細部を見せるには、ピントをしっかり合わせ、全体を鮮明に写すことが求められます。
ただし、F値を上げすぎると「回折現象」が起きて、かえって画質が低下する場合があるので注意が必要です。
回折現象とは、絞りすぎたときに光がレンズ内で回り込み、写真が全体的にぼやけた印象になることです。
被写界深度の計算
被写界深度は撮影時の設定や環境によって変わります。
こでは計算によって被写界深度を出しますが、おおよその目安として思ってください。
被写界深度
過焦点距離の計算
過焦点距離(かしょうてんきょり)とは、ピントを合わせることで「手前から無限遠まで」ピントが合って見える最短の距離のことです。
過焦点距離はパンフォーカスに撮影するときに有効です。
風景写真などで、前景から遠くの山まで全体をくっきり写したいときに役立ちます。
被写界深度は、ピントを合わせた位置の前後に広がります。
過焦点距離にピントを合わせると、理論上は過焦点距離の手前およそ半分から奥の無限遠までピントが合って見えるようになります。
実際には「ピントが合っているように見える範囲」の目安として考えるのが適切です。
そのため、完全にシャープな描写が得られるとは限りませんが、効率よく広い範囲をくっきり写すための実用的な基準になります。
たとえば、ある設定での過焦点距離が3メートルだとします。
そうすると、手前1.5メートル(= 3mの半分)から無限遠(遠くの山や空)までピントが合って見える、という意味になります。
過焦点距離

被写界深度は、写真のストーリーや印象を根本から変えることができる、とても重要な表現手段です。
写真の中でどこに視線を集めるか、どの部分を際立たせるかを自由に決められるからです。
被写界深度の調整によって、見る人の感じ方や写真の伝えたいメッセージが大きく変化します。
意図的に背景をぼかすことで被写体を引き立てたり、すべてをはっきり見せることで風景の広がりを見せたりするなど、表現の可能性が広がります。
被写界深度を正しく理解して使い分けることで、自分の意図を写真にしっかりと反映させることができます。
被写界深度を理解して使いこなすことで、見る人の視線をコントロールし、伝えたい世界をしっかり表現できるようになります。
この記事では、「被写界深度 わかりやすく」というテーマで、初心者でも理解しやすいように基本から応用までを解説してきました。
被写界深度を理解すれば、ただの記録写真から「意図を持った表現写真」へとステップアップできます。
ピントとボケを自在に操ることで、主役を際立たせたり、風景全体をくっきり見せたりと、写真の表現力が格段に広がります。
特に重要なポイントは次の通りです。
- 被写界深度とは「ピントが合っているように見える範囲」のこと。
- 被写界深度は主にF値・焦点距離・被写体との距離の3要素で決まる。
- F値を小さくすれば背景がぼけやすくなり、大きくすれば全体にピントが合っているように見える。
- 焦点距離が長い(望遠)ほどボケやすく、短い(広角)ほど全体にピントが合っているように見える。
- 被写体に近づくほど背景がぼけやすくなる。
- 撮影シーンに応じて浅い・深い被写界深度を使い分けることで、写真の意図がより明確になる。
カメラの設定に迷ったときは、まずこの3つの要素を思い出し、構図や目的に合う組み合わせを探してみてください。
失敗を重ねながら実践していくことで、被写界深度の感覚は自然と身についていきます。